谷川岳

2002年12月6日-12月8日

12月6日

集合時間午後10時川崎駅。身支度に手間取った私は10分ほど遅れて到着した。
今回は川山新入生の私初の「冬山」。
12月といえばここ例年暖冬続きでもあり、「まー、冬山といっても普通の寒い山だろう」っと、参加者募集の箇所の自分の名前のところに大きく丸印をつけたのが10月初旬のこと。
しかしどうしたエルニーニョ。今年に限って10月からスキー場はオープンするわ、11月最初に木枯らしが吹くわで、天気予報でも「今年は例年に比べて寒波の到来が早く・・・」とか言ってるし。「こ、こんなはずではなかった・・・」
谷川岳というと毎年のように遭難者が続出するニュースを耳にする。生まれて始めての雪山がよりによって谷川とは。
車中は初心者の私に冬山のよさをアピールする話が多かった。「内田―。冬山はいいぞー。」「そうですか・・・」「きれいだし」「はあ、いいですねえ」「静かだし」「ああ、いいですねえ」「最高だぜ!」(心の中の声)バカみたい・・・。
水上の町を抜けた車は深夜2時過ぎに天神平ロープーウェーにある駐車場に到着。ここにあるレストランは深夜も利用可能でしかも床暖房付き!ここで仮眠をとるが食堂内は他にも登山客らしき人たちがシュラフにくるまっていた。
ここで雪山初参加の私の荷物を点検。持っていないオーバーパンツや手袋を中野さん富さんからありがたくいただく。アイゼンは立野さんから借りる。ピッケルは中野さんから。冬用装備をほとんど持たないで参加してしまったが、借り物で装備がそろった。

12月7日

 ポンキッキの「やきいもレゲエ」の大音量で起こされたのが6時前のこと。最悪の目覚めである。
 6時半ごろ、いよいよ出発。
 当初の予定は7日にテン場到着、8日に雪上訓練とのことだったが、11月の好天続きと12月に入ってから気温が高めなためか雪が少ない。後ろを歩く富さん中野さんの「雪が少ないな」「これじゃ訓練にならないな」の声が何回も聞こえる。私にとっちゃ好都合なのだ。
 登り始めて1時間ほどで鉄塔のある場所に到着。本来ならば雪によりここに到着するのに4時間はかかると想定していたそうな。はっはっはっ。楽勝じゃーん。
と、言うわけにはいかなかった。「よーっし。今日は頂上まで行こう」と中野さんの声。な、なにーい?背中の食料がずっしりと重くなったのがこの瞬間。
ところが、そこから30分ほど登ったところにテントを張ることになり、ここからピストンで頂上に行ったので、この心配は杞憂に終わることになる。
テントを張って頂上に向かって出発する時にアイゼンを装着。歩き始めはぎこちなくなってしまったが、慣れてくると重さもあまり感じない。森林限界点を越えるころから地面は硬い雪でびっしりと覆われるようになり「もしこのアイゼンがなかったら、下までまっさかさまだあ・・・」と想像するだにおそろしく、足を地面にたたきつけるように必死に前に出した。
天候は雲が出てきたが視界は良好。今回は西黒尾根に沿って頂上を目指すルートだが、遭難者続出の一の倉沢が尾根越しに見える。日光方面はもちろん遠くに朝日連峰も見える・・・とか中野さんが言っていたが、足元が気になりとても周囲を見る余裕もなかった。
しかし、夏の喧騒とは打って変わり、雪に覆われた山は静まり返っている。夜が明けて3時間はたつが、一行以外に会う人もいない。音を立てても地面に吸い込まれていきそう。空気がピーンと張り詰め、顔を刺す冷気が心地よい。
冬山初心者にとっては時間がたつほどに大変なのがアイゼンワーク。足の裏が突っ張るような感覚(土踏まずを青竹ふみに押し付けたい気分!!)が気になり、最後のピークになると疲労感で思うように足が前に出ない状態になってしまった。
13時ごろ頂上に到着。ほっとしたのもつかの間、風雪が激しくなることが予想されたので、写真を撮って下山開始。頂上付近は雪が80センチはあったようで、フカフカした雪に足をとられると足を上げるのが大変。でもふかふか雪で苦労している場合ではなかった!
下りで氷のような硬い地面になると足がすくんで動けない。一度足を滑らせてしまったが、アイゼンを地面に押し付けようなんて冷静にもなれなかった。もし後を歩いていた富さんがとっさにザックをつかんでいてくれなかったら「谷川だけ今シーズン初の遭難者は30歳女性、独身」なんて新聞に載っていたのかもしれない。
 森林限界点のあたりで私たち一行を待つ佐藤さん夫妻に会えた時は全身の力が抜けてしまった。
 この場所で佐藤さんたちと紅茶を飲んでいた時のこと。音もなく降る雪を見ていると結晶のまま舞い降りてくるのに気がついた。これはとっても神秘的な体験だった。
 テン場へもどって夕食の準備開始。私は食料係をおおせつかり、記念すべき初仕事は「キムチ鍋」だった。これは「じっくり作ってあるから旨いなー」と好評だったので気をよくしていたが、実は時間がかかりすぎと言われただけだった。 

12月8日

この日の朝は雪上訓練。ワカンをはいて(アイゼンよりも大変!)ちょっと上まで登ってワカンの歩き方の練習と、新人のための滑落防止訓練。必死にやったけれど、でも実際に滑落しかけたらここまで対応できるんだろうか。
10時にはテントをたたんで下山。下に行くにつれ、雪が減って茶色い地面が露出してくるとなんだか悲しくなってしまった。天神平のロープウェイ乗り場につくころには泥まみれだったような気もする・・・。
帰りは温泉によってそばを食べて帰ったが、この山行から帰って早速プラ靴とアイゼンとピッケルを購入しようと計画を立てている私は「山バカ」なのであった。

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