確保技術

登攀時、万が一墜落すると人間の体に衝撃が加わり、最悪の場合死に至ることは容易に分かる。では墜落するとどのくらいの衝撃が体に加わるかを数値で考えてみる。

1、落下速度

落下距離m 秒速m/s 時速km/h 時間s
1m 4.4m/s 15.9km/h 0.45s
2m 6.2m/s 22.5km/s 0.63s
10m 14.0m/s 50.4km/s 1.42s

 垂直に墜落した場合1m落下するのに要する時間は0.45秒で、そのとき時速15.9km/h の速度になる。10mでは1.42秒で50.4km/hの速度になる。空気抵抗は無視すると体重には関係しない。
 10m 墜落したとき確保者は1.42秒以内に確保体制に入り墜落を止めなくてはならないことを意味する。もし失敗すると時速50kmの乗用車に追突されたほどの衝撃を受けることになる。

2、衝撃値

人間の耐衝撃値 12KN
2m落下(沈み込みなし) 78KN
2m落下(沈み込みあり) 7.8KN

 人間は12KNの衝撃に耐えられるそうです。体重などの要素によってもばらつきが考えられますが一概には12KNとしておきます。
 人間が垂直に2mを落下し伸縮性のまったく無いロープで確保され止ったとすると78KNの衝撃が加わり、12KNの耐衝撃値しかない人間がひとたまりもありません。伸縮性のまったく無いロープではなく、伸縮性や制動確保で沈み込みを与えると衝撃値は10分の1に軽減されることを意味しています。
 いかに伸縮性、制動確保が大切か理解できると思います。

3、ロープを使ったクライミング時の衝撃値

実際の登攀では収縮性に富んだロープを利用しますし、体重によっても、岩場の傾斜や岩質によっても衝撃値は違います。その中で、落下係数が衝撃値によって大きく違うことを示します。

 同じ墜落距離でも繰出したロープの長さにより、落下係数が異なります。ランニングビレーをとらず2m登り、落下すると4m 落下し、落下係数は2となります。2m 毎ランニングビレーをとりながら登り、3個目のランニングビレーをとったあとさらに2m 登り4m 落下すると落下係数が0.5 となります。
 衝撃値は落下係数に比例しますので1/4に①と③の場合低減されることを意味しています。
 登攀開始直後の墜落は危険であり、フリークライミングでも墜落時に備え確保者が体を張ってフォローしたりします。登攀開始時には早めにランニングビレーを取る必要があることが分かります。またランニングビレーが衝撃吸収に有効であることが分かります。

3、隔時登攀

  • ビレーポイント/アンカー
  • ランニングプロテクション
  • 適切な装備と正しい使い方
  • 理論に基づいた習熟された確保

 隔時登攀では墜落時の確保が重要ですが確保に使う支点が強固でなければなりません。ビレーポイント、ランニングプロテクションが強固で、適切な確保器と確実な操作に拠ってしか確実な確保はできません。適切な確保器とはATCにしろ、ルベルソにしろ、確保器とロープの径や材質との組合せが適切かどうかです。理論に基づいた習熟された確保とはロープに流れる方向と確実にとめるための操作が理論上どうなっているかを理解し、繰返し訓練し習熟していなければ確実な確保は難しいということです。
 確保支点は強固出なければなりませんがもし強固な支点が得られなければ、複数個所から支点をとり、連結し衝撃力を分散したり緩和する必要があります。

  • 確保支点
    強固(パワーポイント)
    複数(バックアップ)
    連結(流動分散、衝撃の緩和)

4、流動分散

 二つの支点からビレーポイントや懸垂下降の支点をとる場合、支点のかかる衝撃や力はスリングの長さによる角度に大きく関係します。2箇所の支点からスリングを使い、メインロープを使い懸垂下降するときスリングの角度が120 °では0.98KNの力が片側の支点に架かることになる。1つの支点にかかる力を2つの支点で支えても、同じ程度の力がかかることを意味している。50°では0.54KN、30°では0.51KNと半分の力に分散されていることが分かる。20°以下しても半分以下にはならない。
 複数の支点から確保点を得る場合、50°以下にスリングの角度がなるように十分長いものを使う必要があることを注意すべきである。このことを「流動分散」という。

 流動分散によるロープに長さを考えると30cmの支点間隔で30°の角度を得るためには支点間隔の約2倍の長さのスリングが必要と分かる。50°と30°では1.6倍の長さの違いとなるが1.05倍の効果しかないことになる。

5、確保支点

 セルフビレーや懸垂下降の支点(プロテクション)を使う場合、強固な支点を使い、もし不安があるなら複数の支点を使いリスクを分散することが必要となる。複数の支点の一方が破壊された場合、ロープがどうなるかを常に考え、良い、悪いの判断ができることが求められます。

ロワーダウン、懸垂下降(ラッペルという)の支点をとる場合一方が破壊されたとき、どうなるか理解することは安全につながります。すべて、支点を利用する責任は自分自身であり、リスクはすべて自分にかかることを充分理解してほしいと思います。

7、ロープ、スリング、カラビナの強度

確保するときに使うロープやカラビナの強度は概ねつぎのとおりである。

ダブルロープ 8KN  
シングルロープ 12KN  
カラビナ 縦方向 22KN  
カラビナ 横方向 8KN 開いていると 7KN
スリング・ダイニーマ 22KN  

本資料は2010年1月24日神奈川県山岳連盟指導委員会主催の指導員更新講習会での講習内容を基に川崎山岳会の講習会用に作成したもので文責は布田仁(川崎山岳会)にあります。
(文責 布田仁)

コメントは受け付けていません。