北アルプス 金木戸川・双六谷本谷/沢登り

日程

2014年8月1~3日

山域・形態

北アルプス 金木戸川・双六谷本谷/沢登り

メンバー

長友、大塚、望永

使用装備

8mm50m、フローティングロープ25m

遡行時間

8/1:双六ダム8:30~入渓15:00~打込谷BP16:00
8/2:BP8:00~センズ谷12:00~蓮華谷16:00~1850m付近BP17:45
8/3:BP7:00~抜戸沢8:50~双六池13:00~新穂高温泉19:00

行程


■2014年7月31日(木)

23:00ごろ、登戸で集合し長友車で出発。深夜の中央道を快適に飛ばし松本ICで下り、道の駅奥飛騨温泉郷についたのが深夜3時半ごろ。明日からの長い行程を考慮し、最低3時間は寝ようという話になり、6時半起床として早々に就寝。


■2014年8月1日(金)

6:30~7:30で起床・準備。道の駅から入渓点になる双六ダム奥の駐車スペースまで車でまだ約20kmある。パッキングし直し朝ごはんを食べて車を出す。
8:00ごろ双六ダム奥の駐車スペースに到着。支度をして8:30ごろ出発。久しぶりの泊まりでの山行で、荷が重い。天気は快晴で朝から暑い。入渓までの長い林道歩きに気が重くなる。
●双六谷への遡行は、ちょうど駐車スペースで閉鎖された金木戸林道ゲートから13kmほどの長い林道と踏み跡のアプローチから始まる。踏み跡が終わる打込谷出合いから入渓して、遡行終了点の双六池までの流程は約12km。行きだけで合計25kmほどになる長い沢旅である。

10:15ごろ北陸電力の池の尾発電所を通り、12時に林道終着点の取水ダムにつく。しばし休憩する。とにかく暑くただの林道歩きもスピードが全然出ない。
取水ダムから先は踏み跡をたどるが、どうやらシーズン初めの遡行者になるようで、踏み跡が部分的に自然に返っていてところどころ密なヤブ漕ぎになる。こういうときは大塚がガンガン行く。

また踏み跡は数か所崩壊しておりロープがフィックスしてあったが、ロープの連結がほどけそうになっているところ(釣師の仕事っぽい)と、打ち込んだハーケンが抜けてフィックスロープの意味をなしていないところがあり、それぞれフィックスし直したりケルンを立ててみたりしたことからさらに時間を費やした。

結局、14:30ごろ入渓点とした打込谷の500mほど手前にある壊れた吊橋に到着した。休憩し沢準備を整え、15時に入渓した。

入渓してすぐに2~3回渡渉をこなした。当然ではあるが、関東近郊の沢と比べ圧倒的に水量が多く、水圧も非常に強い。沢というより川だ。場所によっては相当の深さがあり、万一流されればただでは済まないだろう。渡渉点は慎重に選んだが、身長差から170cm以上の大塚・長友が腰程度であっても150cm台の望永は胸下までの水位となり、重たい水圧に圧倒される。スピードの上がらない暑いアプローチで疲れたことからも、当初の1泊目の幕営地はほど近い打込谷出合い付近とし、そこまでは改めて渡渉のシステムの確認や水量・水圧に馴れるよう練習しながら遡行することとした。

16:00頃,打込谷出合い。タープを張って居場所を作る。選んだ場所は、増水しても逃げる心配のない広い平らな砂地で、寝心地も最高。焚き木を大量に集め派手に焚火を楽しんで、ウインナーやキノコを焼いて食べた。メインは望永のスパイスから作る絶品インドカレー。満腹になり、延々と焚き火を楽しんでタープの下、就寝した。

●予定では初日にもう少し先の下抜戸広河原まで行くつもりであったが、短い遡行時間のなかで改めて渡渉の確認ができたのでよかったと思う。というのは当然ではあるが、最も水量が多く厳しいのは下流域であり、このような大水量の谷に入るのは初めてだったからだ。渡渉では身長差・体重差はかなりのハンデになる。大塚・長友と望永との水量・水圧の感じ方の違いを早い段階で共有することができたことは収穫だった。明日は時間がかかったとしても積極的にお助け紐を出し、ロープ渡渉またはスクラム渡渉を駆使して遡行しようと、皆で意識を共有した。


■2014年8月2日(土)

朝6時起床。焚き火の残り火を集めて火を起こし、棒らーめんで朝食を済ませ、不覚にもまさかの二度寝。8時出発。天気は昨日と打って変わって曇り。

谷は両岸が高くゴルジュ記号が続いているが、谷幅は広く谷全体が明るい。水量の処理もさることながら谷は水で磨かれた巨大な岩で構成されており、ちょっとした岩の乗越しがいやらしい箇所も多く、しっかりフリクションを効かせる足元の技術が必要だ。巨岩に力でマントルを返すのは小さな望永には大変で、お助け紐をバンバン出しして越えていく。2~3mほどの滝,というか水流の落ち込みが連続しており、その付近は流れが非常に強く、慎重にへつった。
また遡行早々、神経を使う渡渉が連続する。渡渉では強い水流を受けるため胸まで水につかるときも多く、全身ずぶ濡れになるし、双六谷の川底は意外にぬめっていて滑る。大塚か長友がフローティングロープを引いてまず渡渉し両岸で肩がらみでフィックスしたうえ望永がPASをロープにかけて渡渉するか、三人でスクラムを組んで渡渉していくか、その場その場で互いに判断する。
気温はそこまで高くなく天気は曇りでときどき寒くなる。夏とはいえファイントラックのフラッドラッシュを中心としたレイヤリングで固めていなければ、かなり震えながらの遡行になっただろう。

1か所、大釜をもった3mほどの滝がへつりきれずに左岸を小さく巻いた後、懸垂下降で沢に戻った。泳げば水際から突破できたであろうが、寒いし泳ぐ気には全くならない。8mm50mのロープを使用したのはこの1回きりだった。あとはフローティングロープですべて済ますことができた。

12時ごろ、センズ谷出合いを通過した。ここまで時間はかかったが、右岸から出合うセンズ谷は50mに及ぶ大きな滝とともに双六谷に流れ込んできており、この出合いから明らかに水量が減ったのを感じた。 厳しめの渡渉も何度も行ったため、すでに声をかけあわなくても次にどうするか皆わかりあえているようで、何も言わずにスクラムを組んだり、フローティングロープをフィックスしたりする。双六谷の膨大な水量にある程度馴れて楽しくなってきた頃にセンズ谷に出合ったので、これで水量が減り厳しさが和らぐことに安心する反面、どこか残念な気もした。

13時、下抜戸広河原の長いゴーロ帯の一番上流側でお昼のレストをとった。タイミングよく久々に晴れ間がのぞき日が差してきた。昼食を食べながら,しばし乾かし大会になる。

13:30遡行再開。先は長いため今日は蓮華谷を越えてさらに先へなるべく進んでおきたい。また曇ってきて天気も崩れそうな気配があり、行けるところまで行っておきたい。
ゴーロ帯を過ぎ,谷はまた両岸が高くなりゴルジュの様相を呈すが、水量は明らかに減り厳しい下流域を抜けたことを再度確認する。失敗すればただでは済まないような渡渉はほぼなくなったが、かわりに谷幅がいままでより狭くなり、より積極的に水際をガンガンへつっていかなければならない。

14時、遡行中の核心?と言われる「キンチジミ」。両岸が立った巨大な釜に2mほどの水流が激しく落ち込んでいる。ルートは一見して左岸の磨かれた側壁のへつりで、1か所残置スリングがあった。長友がフローティングロープを付けてトップで行ったが、残置を超えて数歩のトラバースの後完全にフリクション勝負のクライムダウンが2~3歩ほどあり、落ちても釜なので問題ないとは知りつつもかなり難しく感じ、全員同じルートで進むのは不可能と判断して諦めた。他の記録では簡単に?へつっている人もいるようなので、ルートファインディングミスかもしれない。左岸から巻き上がり、ヤブ漕ぎトラバースを経てクライムダウンで沢に復帰した。

14:40頃小雨が降りだしたが、すぐに止む。 14:50、キンチジミを超えてすぐのところで右岸から支沢が出合う。ここも十分沢登りの対象となるような大きな滝で出合っており、双六谷のスケールの大きさをまた実感する。キンチジミ以降、特に難しい箇所もなく順調に遡行する。

15:40また小雨が降ってきたが止む。 16時、ゴルジュが終わり、蓮華谷出合いについた。少しレストをとった。出合いは高台状になっており幕営適地ではあるが、もう少し先に進んでおきたい。時間的に幕営地を探しながらの遡行になるので、各人で幕営適地を物色しながら遡行するよう確認する。17~18時で時間で遡行を区切ることにし、行けるところまで行くことにする。

16:30、しっかりとした量の雨が降ってくる。一瞬増水を覚悟し蓮華谷出合いに戻ろうかと考えたが、10分ほどで止んだ。沢に変化はない。 蓮華谷出合いを過ぎ、水量はさらに減り「渓谷」から「沢」に変わったように感じられる。とはいっても普段入っている奥秩父の多くの沢と比べてもまだまだ水量は多い。一方で、木々が沢の両岸からせり出しており親しんできた森の沢の様相となってきた。お助け紐やショルダーを駆使して、幕営地を探しながら淡々と進んだ。望永も長友も疲れており、大塚の馬力に引っ張ってもらって歩いた。

17:45、1850m付近右岸を幕営地に定め、行動終了。さきほどの雨で集めた焚き木がすべて湿っていたが、大塚の努力でなんとか火がつく。狭い場所にタープを張ったが、こじんまりしているところが意外に心地よく快適な夜になる。焚き火で暖を取ってウエアを着乾かし、望永特製の混ぜご飯をいろいろな焼き物をおかずに食べる。すっかり暖まって就寝した。

●2日目は下流域から幕営地に至るまで、水量の処理次第で時間のかかり方に大きな差が出ることが改めて確認できた。基本的にお助け紐もロープ渡渉も難しければ常に出すという方針で進んだため、逆に大きな時間的ロスもなく順調に遡行できたように思う。また3日目は幕営地から双六池までの詰め、そして新穂高温泉までの下山をあわせ8~9時間の行動時間と目処がついた。長い行程であるが、技術的に難しいような箇所は既にないため、時間はかかるだろうが着実に行こうと話し合った。

■2014年8月3日(日)
6時起床。焚き火は昨晩でほとんど燃え尽きており炊事はガス玉で行った。棒らーめん。7時出発。天気は昨日と同じく曇り。いつ降ってきてもおかしくない気配。

ゴルジュも完全に終わり、詰めまでの長い河原歩きではあるが、岩もまだ大きく水量もまだまだありお助け紐を駆使して進む。

7:30、唯一の滝場らしい滝場といえる「6千尺の滝」。滝自体は2条の3m程度で、長友が右岸から巻き気味に登ったが、出だしの一歩は外傾したホールドでぬめった足にハイステップしなければならず悪かった。悪いムーブのときは荷の重さがこたえ、後ろから押してもらって登った。後続はお助け紐で確保。右岸のもう少し手前から巻けば簡単なようだ。

以降、河原歩きで高度を上げるとともに水量が少なくなっていくのを体感できる。さっきまで森の中にいるような沢であったが、いつしか空が広くなってきており源頭が近いのを感じる。双六の稜線もちらちらと見え出してきた。

8:50抜戸沢出合いでレスト。河原歩きでスピードも上がり、時間的にも大丈夫そうだと安心する。

以降淡々と歩く。途中で雪渓が合計4か所出てきたが、いずれも両岸から簡単に巻ける。雪渓が残るのはこの辺の源頭域であろうが、両岸は広くなだらかであるため、もう少し早い時期であっても処理は難しくないと思う。

10:30頃から断続的に小雨が降るようになる。

11:30頃、いよいよ水がなくなってきそうになり、水汲みをして早めのお昼レストにした。

12:30頃、この水たまりを最後に水は完全に見えなくなり伏流となった。

詰めはもっと辛いものを予想していたが、実際はチングルマなどの高山植物が数多く自生している明るく美しい草原に一筋通った、雨が降ったときだけ水が流れるのであろう石の道を気持ちよく登るものだった。これまでの疲れをすべて忘れるほど心地よく、これで双六谷の遡行も終わりなのだと噛みしめながら一歩一歩登った。素晴らしい時間だった。

やがて先頭を行く大塚が振り向き「双六のキャンプ場が見えた!」と叫んだ。

13時、ついに遡行終了点である双六池についた。池をバックに記念撮影し、皆で握手して互いの健闘を称え合った。

双六小屋で1時間ほどレストし、14時に下山を開始した。

【下山】
小雨も断続的に降り、ときおり少し激しめに降った。やはり疲れ切っており細かく何度もレストをはさみながらの下山になったため、鏡平小屋に15:20、登山口に17:40と、スピードは全く上がらない。最終的に新穂高温泉についたのは19時。それから宝タクシーを呼び入渓点の双六ダム奥の駐車スペースに20:30くらいにつき、道の駅に移動してから着替えなどをし帰路についた。諏訪湖SAで遅い夕飯を食べてひたすら中央道を走り、結局家に着いたのは午前2:30くらいだった。た

●感想
初めての北アルプスのビックな沢。アプローチの長さもさる事ながら、入り口からこれまでの沢とは違った。水量の多さ、水の流れの勢いの強さに圧倒された。渡渉は、下流が一番厳しいことを、身を持って体験した。そこから先も、お助け紐だけでなく肩や膝を借りたり、ザックを引っ張ってもらったりと、終始二人に助けてもらいながらなんとか進むことができた。この沢に挑戦できたのは二人のおかげである。
それにしても、焚き火を囲んで、砂の上に寝転びタープの下から星空を眺める。なんて自由で開放的なんだろう。最後の詰めの草原と花畑、これまでの遡行の厳しさが吹き飛ぶほどの穏やかな景色。これがあるからまた行ってみたいと思ってしまうのだろう。
厳しさも楽しさも、美しさも全て揃った、沢登りの魅力120%の素晴らしい山行だった。(望永)

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