岩手・秋田 八幡平 葛根田川・大深沢 北ノ又沢 遡行

日程:

2024年10月11(金)~13(日)  

メンバー:

JO(L)、NA、MO

行程

10月10日 21:00川崎出発
10月11日(金)7:20滝ノ上温泉-11:00大石沢出合-12:20葛根田大滝-13:15滝ノ又沢出合
10月12日(土)8:00 滝ノ又沢出合-11:10 八瀬森山荘-14:00 北ノ又沢出合-15:00 十字峡(ビバーク地)
10月13日(日)8:00十字峡-13:00大深山荘-14:00大深岳-15:00小畚山-15:55三ツ石山-16:30三ツ石山荘-18:30滝ノ上温泉登山口

天候不良の予報から10月の会山行の代案を探していた時に目に留まったのが葛根田川だった。(実は、葛根田川の案は時々上がっていたようだ。)
雑誌岳人では「渓全体が美しく、ただのんびりと歩くことが至福のひと時に思える稀有な沢」と紹介されている。沢のガイド本や山と渓谷などの雑誌や、高桑信一氏の本にも本のエッセイとして書かれていて、これまで歩いた沢とはまた違った魅力がある。そして、岩手と言えば宮沢賢治。周辺の山が舞台になっている物語の世界に近づいてみたいと思っていた。3連休をずらした日程だったが、JOとNAとの葛根田川の沢旅が実現した。
岩手県雫石町までは片道600㎞。首都高から東北道を3人で運転を交代しながらひたすら北に進む。完全にフラットで眠れるシートのおかげで、意外とあっさり到着できた。盛岡ICを降りると、あたりは濃霧。小岩井農場を通過したはずだが、どこを通ったかわからないぐらいだった。滝ノ上温泉の駐車場に到着。周辺の温泉の蒸気がものすごい音を立てている。そして寒い。つい最近まで30度を超える日もあったので、気温の変化にひるんでしまう。きれいな休憩所で沢のしたくをしていると、岩手の登山者たちが声をかけてくれた。どこまで行くのかという話をしているが、岩手弁なのでよーく聞かないと聞き取れない。何度も聞き返してしまうが楽しい会話だった。

【1日目】 7:20 滝ノ上温泉を出発する。モウモウと湯気が出ている地熱発電所を通り過ぎ、林道に入る。川から離れる手前から入渓する。赤テープがある。草の門を通り抜けるとしっかりした踏み跡があり、明るくて広い河原に出る。水は冷たいが水量は多くはない。河原をしばらく進む。紅葉は始まったばかり。大きくゆったりとしたナメ滝をもった支流や明通沢を通り過ぎる。滝行ができそうな場所や、泳いで渡れる淵もあったが、気温が低いので暑い夏にとっておくことにした。お函と呼ばれるゴルジュに。ゴルジュと言っても広いので明るく穏やかだ。深い淵のまわりの茶褐色の岩盤を歩く。淵はエメラルドグリーンでとてもきれいだ。

大石沢を過ぎたあたりからイワナの姿が。葛根田大滝は踏み跡をたどり巻く。ゴーロ帯をすすみ滝ノ又沢の出合の幕営地に向かう。途中何度もイワナの姿をみる。流れが穏やかな淵に流れに向かって泳いでいる。渡渉は流れのあるところにして淵のイワナを邪魔しないように静かに歩く。滝ノ又沢と北ノ又沢との出合に到着。快適な幕営地である。天気が良いので川の横の砂地にタープを張る。JOが静かにあっという間に焚火を熾す。炊飯の準備をしたり薪を集める。水量が少ないせいかなんとなく沢のぬめりが気になったので、滝ノ又沢で水を汲む。夕食は岩手県の郷土料理ひっつみにしたかったのだが、今回はほとんど秋田ということできりたんぽ鍋。おつまみも新米ごはんもおいしくできた。焚火があたたかい。風や雨の心配もなく星がよく見えた。穏やかで静かな渓の夜だった。

【2日目】 昨日までの川歩きとは打って変わって、傾斜が増し沢登りらしくなってきた。途中の傾斜が緩やかになった河原で休憩していると、上部でガサガサ音がした。見上げると体長1mほどの熊が藪の斜面を駆け下りてきた。沢に降りたところで姿が見えなくなり、こちらに向かってこないか気が気でなかったがどうやら沢を横切り対岸の斜面を登っていったようだ。距離にして50mくらいだっただろうか。ここまで間近で熊を見たのは初めてだった。熊がいなくなったことを確認し沢を詰める。ナメが続き、所々にゴルフ場のカップを大きくしたようなポットホールが開いている。中に小石が入り大雨で流れが速くなるとホールの中で小石がゴロゴロ回って岩を削りホールが成長していくのだ。大きいものは滝つぼのようになっている。小滝を幾つか快適に超えると、源流の様相を呈し葛根田川の沢登りも終わりが近いことを知る。水流がなくなるとすぐに藪漕ぎもなく湿原にでた。草紅葉の秋らしい光景が心地よい。ここからは、スマホGPSアプリを頼りに八瀬森山荘を目指す。途中登山道を横切り小屋に向かうつもりだが、登山道らしき道は出てこない。再度GPSアプリを確認すると通り過ぎている。少し戻ってよく観察するとわずかに踏み後が横切っている。たどっていくとほどなく八瀬森山荘に着いた。小屋は無人の二階建てで二階から出入りできるように梯子が設置されている。

少し休憩を取った後、再び湿原に戻り大深沢の下降に入る。沢の入り口は明瞭で藪漕ぎもなくすぐに水流が出てくる。途中の10mくらいの滝は、懸垂下降した。ガイド本では、北ノ又沢出合まで1時間半となっていたが、2時間半かかった。この沢は魚影が濃い。北ノ又沢に入ると水量も減り沢登りとなる。やはり沢は下るより登るほうが慣れているので歩きやすい。しばらく行くと急に沢が開けナイアガラの滝と呼ばれる幅30mくらいのすだれ状の滝が現れる。真ん中たりの水量の少ない部分を登るのだが、水量が少ないとは言えシャワークライムとなる。滝の上に出ると景色は一変しナメが続く。紅葉のナメを歩いていると仮戸沢と東ノ又沢が出合う十字峡に着く。仮戸沢に入ってすぐ右手に高台になったビバーク地がある。本日の泊り場だ。時間も15時を過ぎていた。やがて周りが薄暗くなってきた。十字峡の辺りを偵察していると、突然蟻地獄に吸い込まれるように巨大なポットホールに吸い込まれる。肩までびっしょり浸かり必死に脱出する。一気に戦意を喪失し、すごすごとビバーク地に戻った。ちょうど焚火が付き始めたころだった。焚火の前に陣取り、全身ずぶ濡れで冷え切った身体を温めようとしだが、木が湿っているようで、いっこうに火が大きくならない。それでも、夕食を食べ一杯やっているうちに何とか乾かすことができた。

【3日目】曇りの影響か樹林帯の中だからか昨日より冷え込みは少ない。熾が残っておりすぐに火がついた。今日は北ノ又沢を2時間ほど遡行し1時間ほど藪漕ぎし登山道を6時間ほど歩いて下山する計画だ。水量も多くなくあまり濡れずに行けるだろうと少し油断していた。荷物を整理し、焚き火跡を片付け出発する。(この場所は残念なことにゴミがかなり残されていた。)昨日の終盤と同様にナメが続く。明るいため昨日は真っ黒でよく見えなかったポットホールもよく見えている。すると幅広な滝が現れた。ガイド本には今日の行程中に滝の説明はなかったため、滝が出ても容易に越えられると考えていた。しかし、高さもあり黒光りしており、見るからにヌメりそうだ。ロープを結び水流左を登る。滑りやすい外傾したトラバースがあり、2歩分だけ岩の表面をタワシで擦ってスタンスを確保する。落ち口を抜け立木で後続を確保する。すぐに続く滝は滝の右をNA先頭で登る。しばし歩いた後にまた滝が現れる。滝の中央をNAが水飛沫を浴びながらフリーで登る。濡れた。そして水がかなり冷たい。ここから大きな滝はないが、足元のヌメりが強くスリップしないよう神経を使い意外と疲れる。

地形図上に湿地が表現されているあたりから沢を離れ、湿地(実際には乾いていた)を歩く。このまま登山道に出られれば最高に気持ちが良いが、このあと藪漕ぎが待っている。湿地は沢の右手であるが、登山道に近いのは左手である。ただ、目の前の湿原歩きが気持ちよく末端まで進んでしまう。さて目の前には背丈を越える密な笹藪が立ちはだかっている。視界は前方1−2m程度で両手で掻き分け谷側の笹を足で踏みつけながら道を開いて進む。足を外せば笹は勢いよく戻ってくる。そのため後続もあまり先行者の恩恵を受けない。大きな木の下は少し薮が少ないため、木と木を結ぶように進む。また、ところどころ沢が横切っているため沢沿いに歩くと楽だが、これによりルートを外れていくのでルート補正をしながら進む。ほぼ傾斜がなく地形的特徴がないのだが、スマホ地図アプリで現在地を細かく確認しながら無駄がないように登山道上の小屋に向かって藪漕ぎする。密な藪漕ぎではあったが、この地図アプリのおかげで現在地が特定でき、残りの距離がわかるため、心理的な負担はかなり少なかった。出発前に気にしていた太陽フレアの影響もないようだ。過去の藪漕ぎの中では藪漕ぎ自体の大変さは上位であるが、気持ちは楽だ。1時間半ほどで大深山荘近くの登山道に飛び出た。沢装備を解除し着替えをして縦走登山に切り替える。

MO先頭で歩き始めるが、NAのペースがいつもの調子ではない。小畚山への登りで失礼ながらNA先輩に遅いとお伝えする。その後少しペースが上がるが、スイッチが完全に投入されたのは三ツ石山荘を過ぎた後だった。JOとMOが三ツ石山の山頂で周辺景色を楽しんでいる間にNAは山荘に進み、補給して最後の下りに備える。山荘から滝ノ上温泉までの下りは本調子を取り戻したNAの独走であった。泥濘の登山道、日没後の視界不良な登山道をもろともせずトレラン並みなスピードで降っていく。日本一熱いを売りにした滝ノ上温泉には残念ながら間に合わず、近くの玄武温泉で入浴して盛岡冷麺を食べて帰路についた。自宅に着いたのは朝の4時であった。

【感想】

南八幡平の沢は初めてで、記録などで見ていた東北らしい沢を満喫できた。険しい沢や激しい沢もいいが、年齢を重ねるとこういった静かで奥深い沢もいいと思うようになった。機会があればまた訪れたい。(NA)

行きたかった東北の沢に行くことができた。東北の沢はなんといっても遠いのと日数が必要でなかなか実現できなかった。メンバーのMOとNAには感謝です。さらに今回は泊まり山行にもかかわらず数日前から天気予報が良く、久しぶりに天気の心配をせずに当日を迎えることができた。ただ直前には岩手山の噴火警戒レベルが2にあがって少々の不安要素(警戒エリアが火口から2kmで、今回のルートでは4km付近まで近づく)はあったが。葛根田計画を出した時に意外と知らない人が多かったが、葛根田川は岩手県で、今回の計画は岩手・秋田両県をまたがるルートで岩手山、八幡平、秋田駒ケ岳に囲まれたエリア。東北も運転交代しながら行けば実現可能とわかったので、次はどこかな~と地図を眺めています。(JO)

ゆったりした沢旅と、宮沢賢治の物語の舞台となった岩手の山々を歩くという憧れがかなった山行だった。葛根田川は雑誌や本の言う通りとてもステキな沢だった。大深沢と北ノ又沢の継続遡下降、ものすごい藪漕ぎと内容の濃い山行となった。そしてなにより、山や森の中は「なめとこ山の熊」や「どんぐりと山猫」の世界だった。激しい藪漕ぎをしていると、そのうち「注文の多い料理店」のように山猫軒にたどり着いて、山猫に騙されてしまうのではないかと思えてくる。本当に素晴らしい山旅だった。距離は遠いが、またぜひ行きたい。夏は水に入るのが気持ちよいし、稜線の避難小屋にぜひ泊まってみたい。滝ノ上温泉にも次は行きたい。(MO)

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