冬山合宿 明神岳東稜  

日程:

2020年12月26日(土)~29日(火)

メンバー

L中野 大塚

 

2013年に会の年間目標として設定され、春山合宿ではトレースできたものの、冬山合宿では敗退を喫している。翌2014年にもチャレンジしたが核心部手前で敗退した。以降は半ばあきらめムードであったが、自分の中で何かやり残した気がして、モヤモヤしていた。敗退の一番の要因は日程不足で、近年正月は自宅で迎えたい会員が多く、長期の計画が立てられなかった。今年は新型コロナの影響で、年末の休みがとりやすくなり、十分な日程を確保することができた。

本ルートは、ラッセル、雪壁・雪稜、岩壁と冬期登攀の総合力が要求され、長丁場の縦走に耐えうる体力・精神力が必要となる。また天候にも恵まれないと完登は厳しいものとなるだろう。今回は寒波の合間のタイミングと重なり天候にも恵まれ完登することができた。

12/26(土) 曇後晴

7:00釜トンネル入口 9:00上高地 10:20明神館 11:30長七尾根取付
15:30幕営地(2150m付近)  16:30偵察(2250mまで)  17:00幕営地(2150m)

25日夜、川崎を出発し沢渡に入る。途中、松本インターから降雪あり。車内で仮眠後、6時半に予約しておいたタクシーに乗り込み、冬の登山口となる釜トンネル入口へ向かう。身支度を整え出発。
前回は、釜トンネルを抜けたところからラッセルがありアプローチに時間が掛かったが、
今回は上高地まで綺麗に除雪されていた。上高地から明神までも先行のトレースがあり順調に歩みを進める。
明神から先は、トレースはないがワカン歩行で脛(すね)辺りのラッセルなので負担は少ない。
地図を確認し、過去の記憶をたどりながら長七尾根に取り付く。尾根の取付は、林道に延びる小尾根を跨ぎ少し入ったところにある。尾根に乗る手前は笹薮が濃く、ワカンからアイゼンに切り替える。
大塚君のアイゼンが途中で外れ捜索に戻ることになった。暫く探し回ると笹薮の雪の中から見つかった。
尾根は部分的に急峻で藪の濃いところが出現し、時間と体力を消耗する。
尾根に取り付くまでは、ラッセルもたいしたことはなく長七ノ頭を目標にしていたが、尾根に取り付いてからはラッセルと藪漕ぎで大幅なペースダウンを余儀なくさた。
結局、急峻な藪尾根を抜けた2150m付近の傾斜が落ちたところで日没となり行動を打ち切る。
翌日に備え、偵察がてら空身で急な藪尾根にトレースを付ける。この急な藪尾根を抜けると傾斜が一段落し長七ノ頭は近いようだ。

12/27(日) 晴のち風雪

6:30幕営地 8:00長七ノ頭 9:00ひょうたん池 11:00第一階段取付 17:30幕営地(第一階段を抜けた雪稜2600m付近)

6時半、夜明けとともに行動開始。前日のトレースをアイゼンで登る。一段登ると右に折れ尾根状となり、
傾斜は一段落する。ラッセルが膝上から腰に達するのでワカンを履き、空身ラッセルに切り替える。
長七ノ頭を越え、ひょうたん池(冬は単なる窪地)を通過し、第一階段への尾根に取り掛かる。
空身でのラッセルは楽しいが、戻っての荷揚げは辛い。この単調な作業をひたすら繰り返し、ようやく第一階段に着いたのは、11時。朝の予定では、明神岳登頂を目指していたが、目標をラクダのコルに下方修正。
1ピッチ目、急雪壁を登ろうとするも、岩壁が露出し覆っている雪を払うとホールド、スタンスのない一枚岩だ。
一見手が付けられない。荷を背負っての登攀は無理と判断し空身でトライする。
上部にアックスを引っかけ強引に突破する。直ぐに岩と草付きのミックス帯になり、ダブルアックスで登る。
25mほどで確保点に着き、荷揚げを試みるも私の力では揚げられない。大塚君が荷揚げをしながらの登攀を試みるが、
直ぐに断念。荷物を取りに戻って登り返しを覚悟する。合流し、大塚君が荷揚げのロープを引くとザックが揚がってきた。恐るべき腕力に感謝。2ピッチ目、大塚君リード。急雪壁にロープを伸ばす。3ピッチ目、悪い急雪壁。
所々岩や草付きが露出し、岩との間に雪との空間ができている。踏み抜けばバランスを崩して転落する。
慎重に雪の状態を見極めながらルートを決める。ロープを一杯延ばしても確保点が見つからないので、
雪を踏み固めアックス2本で確保支点を構築し、大塚君を迎える。そのまま、大塚君リードでルートを延ばす。
時計を見ると16時を回っており日没が近いことを知る。さらに雪壁をラッセルし頭に覆いかぶさってくる雪を払いよけながら少しずつルート延ばす。やがて雪稜に乗っかりピッチを切る。大塚君を迎える頃には、周囲が暗くなっていた。
ヘッドライトをつけ、空身で1ピッチ上部を偵察するも幕営できそうな場所はなく、協議の結果雪稜の雪を切り出して幕場を作ることにした。何とか2人用テント1張り分のスペースを確保し、テントを張る。
夜のトイレは要注意だ。テントに入り落ち着くと、大塚君が体調不良を訴える。寒くて気持ち悪いと言う。
話を聞くと、日中天気が良く暖かかったのでハードシェルを脱ぎ、ソフトシェルだけで行動していたが、
途中から天候が崩れた上にビレーでじっとしていて動かなかったので体温を奪われたようだ。
さらに、第一階段に取り付いてからは食べ物や飲み物を口にしていない。
取り敢えず、テルモスの飲み物を沸かし直し口にしてもらう。さらにお湯を沸かし、行動食の残りとともに口にする。
夕食メニューをアルファ米からお汁粉に変更し、水分と栄養を補充したところ回復の兆候が見られた。
ここでの体調不良は、死活問題につながるため一安心だ。

12/28(月)  曇(上部は風雪)

7:00幕営地 10:00バットレス取付 16:20明神岳主峰 16:45幕営地(Ⅰ・Ⅱ峰間コル)

4時半起床。朝食を作りながら大塚君の体調を確認する。大分回復したようだ。

身支度を整え7時出発。雪稜から尾根状になり、交互に空身のラッセルを繰り返す。暫く行くとラクダのコルにでる。
直ぐにバットレスの岩壁にぶち当たる。空身で正面のクラックスラブに取り付くがホールド、スタンスが乏しい上、
張り出した岩が覆いかぶさり何度かトライするも突破できず。仕方なくスリングとカラビナ1枚を残置し(大塚君のです。スミマセン)、大塚君のいる確保点に戻る。

左の雪壁をトラバースし側壁のルンゼ状雪壁を登る。所々岩が露出するミックス壁だ。
ダブルアックスで慎重に登る。最後は雪壁を登りリッジに合流する。途中のブッシュに取った中間支点を残し、
ザックを取りに下降する。再び登り返し、大塚君を迎える。大塚君はピッケルのみのシングルアックスだが何とか登ってきた。2ピッチ目、大塚君リード。核心部を抜けたと思っていたが苦労している。
登ってみると、まだまだ悪いピッチが続く。続くスラブの凹角は、アイゼンが掛かる突起がない。
アックスを引掛け強引に登る。神にも祈る気持ちで、アイゼン、アックスのどれかが引っ掛かっている状況で騙し騙し
ロープを延ばす。20mほどで確保支点に到達。大塚君はピッケルのシングルアックスで登れるだろうか?
コールし呼び寄せる。ロープが確実に上がってくる。かなり苦労しているが何とか合流できた。
その後も、雪壁と岩壁が入り混じるルートを常に緊張を強いられながら高度を上げていく。
上部は浮石が多く、ちょうどいいガバも安心して掴めない。時折落石を落としながら慎重に行動する。
気がつけば15時を過ぎている。またしても、Ⅴ峰までの目標は遠のき、明るいうちの主峰の登頂を目ざす。
暗くなり始めたころ、大塚君のコールでようやく主峰に出たことを知る。
この日も、バットレスに取り付いてからは殆ど飲まず食わずで奮闘した。
稜線に出て安心したのも束の間、Ⅱ峰を見て愕然とする。Ⅱ峰へは、垂直の岩壁を登り返さないと通過できない。
果たして、あの壁を超えられるだろうか。暗い気持ちで浮石の多い急なガレ場をⅠ・Ⅱ峰間のコルへ下降する。
今日もヘッドライトでの行動となる。大塚君がテント場を整地している間に、岳沢側を少し下降しトラバースルートの偵察に出た。途中、トラバースのバンドが走っているがうまく抜けられるかは不明だ。
天候が安定しているのは29日の明日まで、30日朝から再び強烈な寒波が入り強い冬型になる予報だ。
何が何でも明日中には下山しなければならない。あのⅡ峰の壁は超えられるだろうか。かと言って、東稜を引き返すことは不可能に近い。この場所に来てしまったことを後悔した。

12/29(火)  晴、強風

7:00幕営地 8:00Ⅱ峰取付 9:00Ⅱ峰 11:30Ⅴ峰(南西尾根下降開始) 16:20上高地
18:00釜トンネル入口

夜半から強風が吹き荒れる。強風が息をつく間隔がどんどん短くなっている。天候が崩れてきている証だ。
稜線はとても寒く、あまり眠れなかった。
大塚君が昨晩スマホで調べたところ、岳沢側のトラバースバンドからⅡ峰を巻ける記事を見つけた。
トラバースなら二人同時に行動でき、アップダウンもないので時間短縮になるだろう。
昨日偵察したバンドまで降りてみることにした。しかし、ルートが判然としない。
もし、ルートを間違えれば大幅な時間ロスになる。悩んだ結果、ルートが確実なⅡ峰を直登することにした。
何としても岩壁を突破するしかない。覚悟を決め、コルに戻り、アンザイレンする。正面を3mほど直登し、
左にトラバース。慎重にロープを延ばし、フィックスロープに手を掛ける。
掴んだロープが抜け出さないことを祈りつつ一機に重心を持ち上げる。何とか確保支点に達する。
「これで下山できる。」本当にそう思えた瞬間だった。更にもう一ピッチ大塚君がルートを延ばし、Ⅱ峰に達する。
Ⅱ峰を超えⅢ峰へ向かうルートが判然とせず、ザックを置いて偵察に出る。ピークを巻いておりわかりにくい。
暫く行くと信じられないことに向こうから3人パーティがやってきた。今合宿で初めて他人を目にした。
挨拶を交わしザックを取りに戻る。トレースを頼りに縦走を続ける。Ⅲ峰で大休止をとる。
明神岳主峰やこれまでたどってきた東稜、前穂高や西穂高岳の峰々が見渡せる絶景スポットだ。
特に、これまで苦労して登ってきた東稜を末端から見返したときは熱いものが込み上げてきた。
合宿の成功を実感した瞬間でもあった。昨晩は、「こんなところに来るんじゃなかった」と後悔していたが、
今は「本当に来てよかったと」思える瞬間だった。後は、Ⅴ峰を超え南西尾根を下山するだけだ。

南西尾根は、不明瞭な尾根や急峻な痩せ尾根が入りくねっており、前回下山に苦労した覚えがある。今回は、スマホのアプリに南西尾根の軌跡をダウンロードしGPSで確認できるようにした。こまめに現在地を確認しながら慎重に尾根にでる。赤テープが随所にあり迷うことはなかった。一部痩せ尾根にはフィックスロープもあり、急峻なところはフィックスロープを利用し懸垂下降した。これまでの縦走で疲れ切った身体には辛い下山となった。疲れもピークに達したころ、岳沢の登山道に出た。河童橋で夕陽に映える明神岳を目に焼き付け、本合宿が終わったことを実感した。

 

冬山合宿を振り返って

計画時に、ネットで明神岳東稜に関する記録を調べたが、厳冬期の記録は殆ど見当たらなかった。登ってみて冬の入山者がいない理由がわかった気がした。

行程:本ルートは入山者も殆どなく、ラッセル、雪壁・雪稜、岩壁が続くので第一階段取付からラクダのコルで1日見たほうが良い。(2日目で第一階段手前の尾根、3日目でラクダのコル、4日目コルからⅤ峰の計画が妥当と考えられる)

食糧:軽量化のためα米とジフィーズをベースとした。特に問題なし
お汁粉はバテたときに食べやすかった。飲み物に、生姜湯、レモネード(いずれも百均で購入)はテルモス用にもよかった。稜線での行動食には、広口のプラボトルにレーズンやナッツなどを入れ、手袋をしたままでも食べられるようにした。風の強い稜線で役立った。

装備:リーダは、ピッケル+アイスアックスを装備した。雪壁、岩壁(ミックス壁)が多く重宝した(無いと登れない)。アックスは、アイスアックスよりもいわゆる「バイル」の方が使いやすい。(傾斜が緩いとアイスアックスは掛かりが悪い)ガスカートリッジは、一泊当たり1個で計画したが、良かった(若干余るくらい)ワカンは、川崎山岳会伝統の越後式ワカンを使用したが、積雪量の多い山ではラッセルに強いと感じた。浮力が大きく、富山式のように足元でクラつかないので、きれいな階段状のステップを作れる。また、アイゼンとの併用とも可能なため、対応領域が広い。

その他:スマホアプリにルート奇跡のダウンロードをしておいたが、特に下降路で視界が悪かった場合に役立ったと思う。

 

 

 

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